いいなと思って古民家を購入、素人の判断でどうにかなると簡単に考えて、所有してから大工さんやハウスメーカー、リフォーム業者に相談して……いざ壁をめくってみたら?床下に潜り込んでみたら?ひどい状態だった。修繕費が新築以上にかかってしまう物件だったという話になる前に!
移住を前提に古民家の取得を考えるお客さんから、購入を考えている物件の調査と改修必要箇所の調査を依頼されました。
間取りや住みよさなどは、住み手の直感のほうがあてになるとして、木造建築のプロの目線で屋根の作りやダメージの確認、床下の確認、水道配管設備関係の経過年数などを視認、聞き取りをしました。2時間という制限の中でわかる範囲、樹杜屋独自の趣味に偏った見方にはなりますが、今すべき修繕、将来することになるであろう修繕とその方法、かかる費用の概算を見積もりました。この場合の「わかる範囲で」というのは壁の中はわからないからです。古民家で過去に改修がない場合は真壁(しんかべ)造りのケースが多くこの場合は構造や設備など多くのものが露出しているため確認が目視でできるメリットがあります。かえって大壁の場合は隠蔽施工(いんぺいせこう)となり、壁などを壊して取り外す以外はどのくらいの傷みがあるか確認できません。逆に床下や天井裏(小屋裏)は点検口などから目視することができるので傷みなど現状把握が容易です。
なお構造が傷む原因のほとんどが雨漏りと湿気なので、屋根と床下を重点的に確認します。壁面についても外壁は壁面に物を置いていると劣化が早く傷んでいるケースが多いので、物の量と置き方を見て出来る範囲で予測の精度を上げます。
今回の物件の場合は、屋根は問題なく、壁も未確定要素はありつつも真壁部分が多いので比較的良。床下については過去に水没か湿気の発生でダメージを受けたらしくその後対策を行った痕跡がありました。それ以降はダメージは進んでいない様子ですが構造の木材は白太がなくなり赤身が残っている状態。見た目が悪いですがこれ以上は進まない、構造的にも問題はないと思います。しかし材が細くなった分歩くと床が振動し、生活にストレスを与えるような不安要素が認められます。伝統的な木構造はとてもシンプルです。現代工法のように何重にも素材を重ねて作られていない為、専門家でなくても構造材(木材)の状態を確認するのが容易なのは伝統木工法の大きな利点だと常々思っています。今回の場合、損傷を受けている場所は床を支えるだけの場所(柱など構造からの荷重がかかる場所ではない)なのと、大工事にはなるでしょうが比較的短期間で終わる工事内容なので、住み始めて異変を感じてからでも問題ないと判断しお伝えしました。
基礎工事の型枠が外れていなかったり(本来は外すもの)柱の下にパッキン(??)があったり謎の残るところも多くありましたが、古民家へ調査に入るとそういうケースはよくあります。考えても仕方のない話なのでともかく改善する方法を考えます。大規模に工事する方法、安価には済むけれど年に一回は監視して状態を把握する方法、いろいろあると伝えました。お金をかければどんな家でも修繕はできますが、予算というものがありますので、相談を受けたときはいつでも複数の方法を提案するようにしています。
新築にはない趣。地域や風土に根差した建築意匠。古民家には一言では言い表せないほどの魅力が詰まっています。ただその経た年月の分、新しく手が加わった分、必ず損傷があり住むうちにいずれは修繕が必要になります。新天地での暮らし、新居を得ることはたいへんなことも多々ありますが、同じくらい楽しみの多いことでもあります。新生活に関する予期せぬトラブルや心労を少しでも減らすために、新居をプロの目でチェックし、修繕の優先度判別、経費の心づもり、予算建てをするのは古民家現代民家にかかわらず必要なプロセスだと考えます。
注:タイトルに使用したアイキャッチ画像はイメージです。